ミツバチの失踪

Christy Ullrich for National Geographic News February 15, 2013

農薬の組合せが原因か

 ミツバチは蜜や花粉を求めて、1匹で1日に数百から数千もの花々をめぐっている。1日の終わりには迷うことなく 巣へ帰っていくが、その距離は時に8キロにもなる。そしてミツバチは“8の字ダンス”によって、仲間に花のありかを知らせる。これらはすべて、ミツバチの 生存に欠かせない能力だ。

ところが、特定の農薬の組み合わせに長期間さらされた場合に、ミツバチの花粉採集の遂行能力が損なわれる可能性があることが、最新の研究によって明らかになった。

「こうする能力が少しでも損なわれれば、生存の可能性に大きな影響が出る」とイギリス、ニューカッスル大学の神経科学者で今回の論文の共著者、ジェラルディン・ライト(Geraldine Wright)氏は言う。

 ライト氏らの論文のように、ミツバチの生存能力が脅かされつつあることを示す研究は、このところ増え続けている。2006年以降、何百万匹ものミツバチ が急速に姿を消す事例が世界の各地で報告されていて、「蜂群崩壊症候群(CCD)」と呼ばれている。研究者らはこの現象に農薬が関与している可能性がある と見て研究を続けている。

「農薬がCCDをはじめ、花粉媒介昆虫(ポリネーター)の集団失踪に関与している可能性は極めて高い」とライト氏は言う。

 ミツバチは蜜と花粉を豊富に含んだ花を探し当てるのに、“嗅覚記憶”という能力を使っている。短時間で学習し、記憶し、仲間とコミュニケーションをする 能力のおかげで、ミツバチは非常に効果的にエサを集められる。8の字ダンスによってエサのありかを仲間に知らせるのも、その方法の1つだ。

 ミツバチによる植物の花粉の媒介は、私たちの口にする食物の約3分の1に関係している。野生動物の口にする食物についても同様の影響がある。

 これまでの研究によって、ある種の農薬がミツバチの学習・記憶能力に影響を及ぼすことが示されている。ライト氏らのチームの行った調査は、複数の農薬が組み合わさることで、ミツバチの学習・記憶能力に、さらに深刻な影響が生じる可能性を追究したものだ。

「ミツバチは花の色や香りを、得られるエサの品質と関連づけて学習している。ところが農薬は、この行動に関係する神経に影響を及ぼす。(影響を受けた)ミツバチは、コロニーの仲間とのコミュニケーションが難しくなる場合がある」とライト氏は説明する。

 ライト氏らは古典的な手法で実験を行ったが、これには「吻伸展反射の嗅覚条件づけ」という用語が用いられている。平たく言えば、ミツバチはエサのにおいを嗅ぐと、吻(ふん、口先の部分)を突き出す反応を見せるのだが、これを実験に利用するというものだ。

 実験では、まずミツバチをコロニーの入口のところで捕獲してきて、1匹ずつガラス瓶に収めたうえで、プラスチックの保存容器に入れる。これらのミツバチ には3日にわたって、致死量に至らない程度の農薬を加えたショ糖溶液を与える。その後、10分間の短期記憶と24時間の長期記憶について検査を行う。

 この研究によると、農薬が複数組み合わされると、農薬が1種類のみの場合よりも、ミツバチへの影響ははるかに大きくなる。「このことが特に重要なのは、 私たちが使った農薬のうちの1種はクマホスといって、ミツバチヘギイタダニ(CCDに関与していると考えられている害虫)を退治する“薬”として世界中で 使われているからだ」とライト氏は言う。

 つまりこの農薬にはダニを殺す効果があるものの、それと同時にミツバチにも作用して、ほかの農薬による中毒などの影響を受けやすくしているおそれがある。

 花粉媒介昆虫の保護を訴えるポリネーター・パートナーシップ(Pollinator Partnership)のスティーブン・ブックマン(Stephen Buchmann)氏は、ライト氏の研究には参加していないが、花粉媒介昆虫は世界において重要な役割を果たしているのに軽視されていると力説する。「花 粉媒介昆虫にとって最大の脅威は、生息環境の破壊や変化だ。花粉媒介昆虫の生息環境、自然のままの土地、食物を生産する農耕地のいずれも、私たちは急速に 失いつつあるが、これらはすべて、私たちの生存と健康に不可欠なものだ。生息環境の破壊のほかに殺虫剤も、花粉媒介昆虫などの益虫を弱らせている」とブッ クマン氏はコメントしている。